さまよう爪

『両親はあたしがデキちゃったからしかたなく結婚したんです』

鍋の海老を指先を使いながら器用に剥いていく愛流はぽつりぽつり話し出す。

『案の定、パパは今だって社会的地位がある職業だけど出張は彼女同伴です。 パパに構われなくなったママも不倫しました。上手くやってるつもりでも男の人に会いにいく日は幼いながら、化粧をするときの表情でわかりますよ。女を全面に出しててすごく気持ち悪かった。　
『私は育児や家事はちゃんとしてあげてたでしょう』って言うけど、それっておかしくないですか。知らないおじさんと遊園地とか意味不明』

海老の頭は千切られる。

『あたしを父親なしにしたくないから離婚はしないって言ってたけど、本心は、離婚したくなかったのはママなんですよ。結局、一番は安定が欲しかったから。パパは、あたしがいたから離婚しなかった。今後はどうなるかわかりませんけど』

綺麗に四つ折りされたナプキンの上に海老の殻。

彼女とわたしは、対照的でいて、どこか似ている。

幼少の頃、生活の為とはいえ、お互い割り切った体だけの関係の母親と客が気持ち悪くて。

小遣い稼ぎの不倫が惨めで。

不倫相手に本気になってるいく母親が信じられなくて。

ただの暇つぶしで不倫に幻滅して。

不倫相手と一緒に焼き肉に行くのも、思春期の頃にこんなの嫌だったこと伝えたけど、ちゃんと子育てはしてる。いいもの食べさせてもらってるのに。と言われてしまい。

とにかく母親が嫌だった。

『彼のことは大好きですし、あたし自身も性欲はありますよ。でも避妊しても絶対とは言えないと思いますし。中学のときも、高校のときも、たくさん告白された。手紙も貰った。ストーカーまがいに待ち伏せをしてくる男の人もいた。押されて付き合いかけたこともあるけど、キスでさえ気分が悪くなって、それ以上はとてもできなかった。周りでは、恋人でエッチするのは当たり前で、結婚してから体の相性が合わなかったらどうするの？　取り返しつかないよ？　って言われたけどあたしはやっぱりバージンロードを堂々と歩きたいんです』

わたしには彼女ほどの覚悟もないし。信念もないけど。

『彼に告白された時に結婚式が終わるまでしたくないって話したら、ちょっと驚いている感じでした。でも。それでもいい。って、きみじゃないとダメなんだって言われてとても嬉しかったんです』

いつか結婚をする日がくるのだろうか。