さまよう爪

本当にやめて。と言ったのに直人は一切聞く耳を持たずに、首筋を吸われ、チュッチュッと部屋に響く音。

ストッキング越しに太ももを撫で上げられる。

まずい!

焦ったわたしは手が出ていた。

振りあげた手を、思いっきり直人の頬へ。

鈍い破裂音。

叩かれた左頬を手で押さえている直人。

どけて。と目で訴えてみるが呆気にとられてわたしを見つめる。

しかたない。覆い被されたかたちから何とかモソモソと半身を起こす。

露にされた襟元を直す。空気を吸って吐いて覚悟を決め、直人に話しかける。

「……痛い?」

「……うん。お前いま、本気で殴ったな」

いってぇよ。頬をさする。

だって本気で危なかったから。

「謝らないから。欲求不満で人のこと襲うのやめてよね」

「ん」

直人は横向きに倒れ込んで、

「俺なんかでいいのかよ」

いいわけねぇじゃん! と側にあったリラックマのフェイスクッションに顔を埋める。

「愛流ちゃんは直人のこと好きだよちゃんと」

リラックマにキスしたまま、くぐもった直人の声。

「支えられるかな俺」

思い出されるのは居酒屋での会話。