さまよう爪

正直そのレパートリーの多さに舌を巻いた。

ピーナッツ粉の香ばしい香りで、にんじんの香りを和らげる工夫をしたケチャップ風味のジャガイモとアスパラの和え物。食欲をそそるクルミだれで、野菜を美味しく包んだインゲン。ま味たっぷりのそぼろあんと絡めたナス。

味や香りだけじゃなく切り方ひとつで食べやすさは変わるんです。と調理科のある高校へ行った彼女は、ありとあらゆるオカズで野菜を食べてもらおうとしていた。

それはとても健気で愛情を毎日注いで、一途に直人を思っているのがうかがえる。

「一回食べてみなよ。直人のことを思って色々考え」

「俺はすみれの作るミートソースのほうがいい」

ぴしりと叩くように言葉を遮られる。

折角抱擁を解かれたのに、ただ見つめるしかできなかった。

腹の、芯の部分がじくじくする。

ズイッと乗り出した直人に両の肩を掴まれたところで、わたしはようやく慌てて彼の手から逃げようとしたが、それよりも早くその場に押し倒されていた。

やっぱりお前は綺麗だ。と頬を撫でられる。親指の腹で唇をなぞっていく。

見れば右手の親指は赤に染まっていた。

「……直人。指に口紅。ついてる」

やっと、口を動かすことができた。

どうしてだか声が掠れる。

トップスの襟ぐりを掴まれていきなり肩まで剥がされた。

「ちょっと!」