さまよう爪

と真剣な表情を見せた。

予想もしていなかった、というのは嘘だ。

直人はトイレでも、シャワーでも、どこに行くにもスマホを肌身離さず持ち歩くようになっていた。なのに着信があってもわたしと一緒にいるときは触らない。

以前は些細なことで喧嘩が耐えなかったのに最近は言い争いすらしなくなった。

わたしはそれがイイ方向に行ってると、倦怠記だとわたしは見て見ぬフリをしていた。

言葉のキャッチボールというより、バッティングセンター状態のこともしばしばで本当は上の空だったのに。

こういう時、何て言えばいいだろう。正解だろう。

『じゃあ、わたしのことはもう好きじゃないの? 嫌いになった?』

わたしの言葉に彼は眉を弱々しく寄せる。場にそぐわないけれど、かわいいと思った。そんなに器用な性格をしているなら、きっとわたしは好きにならなかっただろう。

『わたしに不満はある?』

『何もないよ。ただ好きかわからない。100%嫌いではないけど、LoveかLikeか、わからない……
すみれは申し訳ないと思っています。でも……もう自分の気持ちに嘘はつけないっていうか、その……』

直人の言葉を聞きながら、ああ、こういうの少女漫画が実写化した映画で見たことがある、と後ろのわたしが呟いた。

心変わりしたヒロインがその懐裡を恋人に表白するも、男は『俺は認めないからな。おまえは俺のモノだ』と聞き入れずにそのままヒロインを押し倒すといった具合だ。

恋に恋するキラキラした女の子が見て喜ぶような映画のシーンだった。

もっとも直人はヒロインじゃないし、わたしも押し倒すつもりなどない。