入学式。
一般的にテンションが上がるとされるものの一つ。
がそれは、俺にとってテンションが下がる行事である。
要らない程高い周りのテンションに、俺はただ一人思う。
下らない、と。

ただのお披露目進学が何故楽しいのだろう。
本気でそんなことを考える程、俺はこの行事の楽しさが見出だせない。
ただ、今年が今までと違うとするならば原因はーーー。
「まーきーくんっ!」
彼女だろう。

俺の肩に飛び付いた彼女は、そのまま飛び跳ねるようにジャンプしながら続ける。
「入学式だね、槙くん!数日振り!昨日楽しみで眠れなかったよ♪」
おっと、今早速、彼女は俺と正反対の意見を口にしたぞ。

“楽しみ”。
俺の解らない感情。
そもそも眠れないってなんだ。
人間の体を確実に休められる、数少ない機会だ。
それをそんなよく解らない感情で妨げるのは、とてもどうかと思うが。

彼女らは、それがいいだとか言うんだ。
寝れなかった分だけ楽しめる、とか、よくわからんことを言う。

「そうか、よかったな。俺は用があるから行く」
肩に乗る彼女の手を振り払い、俺は校舎に歩き出した。
「うっそだ~!用があるなんて嘘でしょ?あ、待って~」
なんて彼女は言うが、用があるのは事実だ。

当たり前ながら首席合格だった俺は、答辞を読まなければいけない。
本来なら断っていたのだが、祖母が了承を出してしまっていた。
その為答辞なんぞを読むことになったのだ。

「暖かな春の日差しに照らされ、自分たちはこの私立光明高校で、入学式を迎えることが出来ました。そしてーーー」

そもそも、答辞を真面目に聞く奴なんて、数える程しかいないだろう。
俺はさっさと読み終えて、舞台を下りた。
それから入学式は順々に進み、俺達新入生は、今朝見た掲示板の通り各々の教室に行くことになった。