ああ、これは何の冗談だろうか。

「あ、槙くんお帰り」

何故お前が俺の家を知っているんだ。
そもそも俺は誰にも家を教えたことはないし、独り暮らしの俺の場合鍵を持つのは俺だけだ。
鍵を抉じ開けたような跡はなかったのだから、ピッチングで入ったのだとすれば相当な技術を持っているはず。
だがコイツはそんな風には見えない。
人は見かけで判断するではないというが、明らかにキョトンとするこの中二病ストーカーバカにピッチングの技術があるとは思えない。

「不法侵入だぞ」
普通の人間ならば、ここで一声『警察呼びますよ』くらいは言うだろう。
ヤバイ奴は110番して本気で動揺しながら、訳のわからない説明を警察にするだろう。

俺は警察なんてアテにしない。
警察なんて何の役にも立たない、そんな奴ら待ってる時間があるなら自分で解決くらいできる。

「不法侵入?あ、勝手に入っちゃうやつ。そっか、私槙くんに言ってなかったもんね、入ってるね」
遅いだろ。
ついツッコミを入れそうになったが、喉元で言葉は止まり声になることはなかった。
「何故俺の家を知っている」
さっきといい今といい…。
それにこんなバレバレな不法侵入をする奴の考えなどわからない。
まさか本気で異世界人だとか神の子だとか言い張る訳ではなかろうが、変な奴だ。

まあどうせ、答えにならない返答を寄越すだろう。
そう長く居座る訳でないなら追い出すだけで勘弁してやる。
「それぐらい知ってるよ」
やはり答えになっていない。
最早尊敬に価する程の語学力、全く流れが掴めない。

「槙くん家、ちょっと何も無さすぎじゃない?ミニマリストだっけ」
「えっ時計ないじゃん。どうすんの」
「何これ賞状?なんでゴミの山にあるの?」
「どうして凄い。この部屋ピッカピカ!」

早速人の部屋を見て回って、余計なことまで突っ込んで来て。
正直言うと、コイツは今まで会った誰とも違う。

勝手にストーカーしてきたりバカ丸出しに俺で妄想したりする奴はいたが、ここまでづかづかと俺のテリトリーに入ってくる奴は初めて。
少しずつ、コイツが他の奴と違うのを認めざるを得なくなってきた。