「あの~、もしかして、神楽槙さんですかぁ?」
気持ち悪い喋り方で、取り巻きのように後ろに人を連れた、一人の女子が俺に声をかける。
一度振り返った俺は、しかし窓に目をやった。
「あ、あの~、もしかして……」
「そうだけど、何」

もう、無視してたら何度も続けられそうだったので、返事をすることにした。
けれど、嫌悪感を隠すつもりはない。
睨み付けて言い放ったものの、女はこれだから嫌だ。

「あ~!やっぱり~!全国模試でいっつもトップに入ってましたよねぇ!私ファンなんです!握手してください♡」
ああ、俺はコイツが嫌いだ。
「嫌」
えっ、と、フリーズしたような表情でその女子は言う。
「や、やだなぁ~、笑えないですよその冗談♪握手して……」
「嫌」
俺は女子の言葉を遮って、再び拒否を伝える。

「冗談じゃないし、笑わせるつもりもない。俺は嫌と言った。聞こえなかったのか?」
嫌味ったらしく言うからか、取り巻きであろう奴らにキレられる。
「あのさぁ、そんな言い方ないんじゃないの?」
「そうだよ!流石に酷いと思うけど!」

ああ、面倒臭い。
何なんだよコイツラ。
「俺は、既に拒否をした。それなのにしつこく来た挙げ句、結局逆ギレ。正論を言ったまでの俺が酷いなら、そっちはより酷いんじゃないか?」
取り巻きは唇を噛む。

「正論だからって、言い方ってもんを考えなよ!」
しつこいって言ったばかりだろうのに、だから女は嫌なんだよ。
そもそも最初、お前らがつっかかってこなければ……。
面倒なことに首を無理矢理詰め込まれた気分だ。

俺は無視していた。
これ以上やっても、変わらないとも思ったから。
けれど取り巻きは、思った以上にしつこくて、そろそろ……と考えていた時、話しかけて来た女子が取り巻きの肩に触れる。

「大丈夫だよ、そんな怒らないで。私は平気だから」
その女子は俺に向き直って続ける。
「神楽くんもごめんなさい。また出直しますね♪」
女子は取り巻きを連れて、自分の席についた。