主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

百合の枕元には様々な薬が常備されていた。

咳止めに睡眠薬に頭痛薬――すべて晴明が百合のために処方したもので、百合が眠った傍に座っていた輝夜は、息吹と晴明が席を外していたのを見計らってそのうちの一包を密かに懐に入れた。


「じゃあお祖父様、母様、私は戻ります。お祖母様のことよろしくお願いしますね」


「輝ちゃん、ご飯一緒に食べて行かないの?」


「私が居ないと兄さんが落ち着かないでしょうから帰ります。また今度遊びに来ますね」


薬を盗んだことがばれないか――内心気が気でなかったが、どうやら晴明と息吹は気付かなかったらしく、そのまま牛車に乗って送り出された輝夜は、ふたりの姿が見えなくなると懐から薬を取り出した。


「この薬を使って皆を眠らせてから…会いに行きましょう」


見えた光景は、じめじめした地下牢。

あんな雰囲気の地下牢が屋敷にあることを輝夜は知っていた。

だがそこにたどり着くには父や雪男や兄の目を掻い潜っていかなくてはならない。

だからこの薬を使って眠らせる――


「まずは悪いですが兄さんを実験台に…」


本当にこの薬が効くのかどうかを確認してから明日実行に移す――


「輝夜、お帰り」


「兄さん、ただいま。いい子にしてましたか?」


「お前こそどうなんだ。お祖母様たちを困らせなかったか?」


ひょいと脇を抱えられて牛車から降ろしてくれた朔に抱き着きながら頷いた輝夜は、百鬼夜行前で大勢の妖が集結している庭に回り込むと、いつものように冷静沈着な主さまの元に駆け寄った。


「ただいま戻りました父様」


「…輝夜」


「はい?」


「…なんでもない。弟や妹たちを頼んだぞ」


「はい。お気をつけて」


いつものように主さまを送り出した朔と輝夜は、各々が秘密を持ち、それを明かせぬ歯がゆさを感じながらも一緒に食事をして風呂に入り、寝る準備をする。


そして輝夜は例の薬を水に溶かして朔に手渡し、飲み終えたところまで確認してじっと見守る。

すぐに目がとろんとして寝てしまった朔を見て、確信を得た。


「明日実行に移しましょう」


あの美しいであろう女に会うために。