主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

『違った…違ったけれど…近い…』


地下三階の地下牢――花はほとんど身じろぎひとつせずそこに鎮座し続けていた。

ここに居座り続けてもうどの位になるのか覚えていない。

だが成就の時が近いことだけは分かる。


彼女にとってそれは悲願であり、そのためにずっとここに居るのだ。

疎まれようが冷たい目で見られようが蔑まれようが…

いや、ほとんどそういったことはされたり言われたりしてはいないが、この国の妖と自分では成り立ちから全く違う。


“渡り”と呼ばれる自分がこの国に侵入した時点で殺されてもいいところを救ってくれたのは…あの方。


『…下弦(かげん)…』


久々にその名を頭の中で呼んでみる。

愛しさでいっぱいになって、切なさに心を引き裂かれそうになって思わず胸を押さえてうずくまった。


とても強くて、そしてとても弱かった男――


傷ついた自分を匿って治療を施してくれて、そして――


『…会いたい……』


こんなことになるのなら出会わなければ良かったと何度思ったことだろうか。


花と名付けられたあの時、ここから出て行って二度と会わなければこんな思いにはならなかっただろう。

…でもそれは到底できなかった。


愛してしまったから。


あの強くて優しくて弱かったあの男…下弦を。


『待つわ…ずっと……』


そう約束したのだから。


この身が塵芥となって消え去ってしまうまで、ずっと――