主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

「母様、明日は兄さまがここに来るそうです」


「うん、そうなの。お祖母様の容態が少し心配だから騒がせちゃいけないしね。だから明日は朔ちゃんがここに来て輝ちゃんはお留守番。いい子にしててね」


「はい」


利発で兄を慕う気持ちなら負けない輝夜の素直な返事に息吹は輝夜を膝に乗せて百合と話をしていた。

晴明の薬で病状はなんとか悪化はしていないものの、昨晩はこんこんと咳をして止まらず、息吹はほぼ不眠不休で世話をしていたため、目の下にくまができていた。


「母様…大丈夫ですか?」


「私は大丈夫だよ。お祖母様もね、お祖父様が咳止めのお薬を作ってくれてからだいぶ良くなったから」


「迷惑をかけてしまって申し訳ないわ…」


「お祖母様、私はあなたの声を聞いたんです。母様にもう一度会いたい、会って謝りたいという声が。間に合ってよかったです。それに誰も迷惑だなんて感じていませんから何も考えずゆっくりして下さい」


――輝夜は祖母の残された時間があと幾ばくもないことを知っていた。

知ってはいたがそれを口にして誰かに教えることについてはしてはならないことだと知っていたし、それを口にしてしまえば自身が罰を受けることも知っていたため、黙ることしかできない。

そして母が何かを隠していることも、知っていた。


「母様、私を生んでくれた時の話を聞かせて下さい」


「うん、いいよ」


流産しかけた時、突然現れた光に包まれた神々しい男女が現れたこと――

なんとか命は救われたもののやはり早産で、しばらくの間は一家総出で輝夜からひと時も目を離さず育てたこと…

その頃すでに朔が片時も手を離さず握り続けていたこと…


全部全部、輝夜の大好きな物語だ。


「大変だったんですよね…」


「大変っていうか、生まれてくれてよかったって思ったよ。輝ちゃんはね、絶対母様が生んであげるって決めてたんだから」


――それは自分も同じ。

母と相思相愛の関係で生まれ落ちたことを感謝しながら、また近いうちに別れなければならない定めに抗うことは許されず、息吹に抱き着いて安心感を得た。