暗がりの中、その“渡り”は静かに座っていた。
雪男と同じ青い目、そして世にも珍しい金の髪――女は正座して座っており、上目遣いで新顔の朔をじっと見つめていた。
「あれがうちの家の悩みの種だ」
「父様…女…なんですね」
「そうだ。この屋敷から出て行こうとせず、ずっとこの場所に居座り続けている。その理由が書かれてあるらしき書物を見つけたが…開かん。今原因を調べている」
『…こちらへ……来て…』
――また心の内に話しかけてきた“渡り”の花は、白くたおやかな手を優美に動かして手招きした。
咄嗟に主さまと雪男が背中に庇って隠したが、花の目はひたと朔を見据えて離さない。
毅然としていろと言われた朔はふたりを押し退けて前に出ると、一歩一歩花に近付いて手が届くか届かないかの位置で立ち止まった。
花は…首を傾けて朔の顔を覗き込むような仕草をすると、落胆したように首を振った。
『違う……』
何が違うのか、と口を開きかけた朔の肩を主さまが強く引いて花から距離を取らせると、話してはならないという約束を破りかけた朔が反省して素直に雪男の隣へ行って袖を握った。
「俺も本を見てみたいです」
「…いいだろう。朔、無断でここには近付くな。輝夜は特に。あれは特別な力があるから何かしらが起こるかもしれん」
「はい。絶対近付かせません」
「ほら、行くぞ」
雪男に急かされて階段の方へ行きながらも朔が最後にと花を振り返る。
…花はとても寂しげ悲しげな表情でこちらを見ていて、胸が痛んだ。
想像していた豪胆な男とは違う。
女で目の色も髪の色もその顔も美しく、何かを待ち続けている節のある花のことが頭から離れなくなった。
雪男と同じ青い目、そして世にも珍しい金の髪――女は正座して座っており、上目遣いで新顔の朔をじっと見つめていた。
「あれがうちの家の悩みの種だ」
「父様…女…なんですね」
「そうだ。この屋敷から出て行こうとせず、ずっとこの場所に居座り続けている。その理由が書かれてあるらしき書物を見つけたが…開かん。今原因を調べている」
『…こちらへ……来て…』
――また心の内に話しかけてきた“渡り”の花は、白くたおやかな手を優美に動かして手招きした。
咄嗟に主さまと雪男が背中に庇って隠したが、花の目はひたと朔を見据えて離さない。
毅然としていろと言われた朔はふたりを押し退けて前に出ると、一歩一歩花に近付いて手が届くか届かないかの位置で立ち止まった。
花は…首を傾けて朔の顔を覗き込むような仕草をすると、落胆したように首を振った。
『違う……』
何が違うのか、と口を開きかけた朔の肩を主さまが強く引いて花から距離を取らせると、話してはならないという約束を破りかけた朔が反省して素直に雪男の隣へ行って袖を握った。
「俺も本を見てみたいです」
「…いいだろう。朔、無断でここには近付くな。輝夜は特に。あれは特別な力があるから何かしらが起こるかもしれん」
「はい。絶対近付かせません」
「ほら、行くぞ」
雪男に急かされて階段の方へ行きながらも朔が最後にと花を振り返る。
…花はとても寂しげ悲しげな表情でこちらを見ていて、胸が痛んだ。
想像していた豪胆な男とは違う。
女で目の色も髪の色もその顔も美しく、何かを待ち続けている節のある花のことが頭から離れなくなった。

