主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

実は輝夜に打ち明けられていたことがあった。


『父様、私は跡を継ぎません。そしてこれは弟妹皆の総意です』と。


万が一後継ぎ争いが起きた時に悲惨な結末にならないように――

もちろん朔の力を彼らは信じて疑っていなかった。

だからこそ主さまも、地下の“渡り”と会わせる決心をした。


「絶対に話しかけるな。今回は見るだけだ。心の内に話しかけられても答えてはならない。いいな」


「はい」


地下に何か妙な生き物がいる――それは朔の胸をざわつかせて、ついて来てくれた雪男の袖を握って離さないまま地下に続く階段を降りる。

一段一段降りる度に空気は凍り付くように冷たく、雪男の部屋が地下に設けられているのはこの猛烈な冷気と漏れ出す妖気に近付かせないためだ。


「よく輝夜を説得できたな。なんて言ったんだよ」


「なんとか言い訳はしたけど気付いてるかもしれない。あいつそういうの聡いから」


「お前もなかなか聡いぞ。主さまが許すなんてなあ…。でもほんと絶対話しかけんな。近付いてもいけないからな」


何度も念押しをされて辟易しながら地下三階にたどり着くと見るからに強力な結界が張ってあって身震いした。

いつかは自分もこの結界を張れる力をつけて、父に教えを請うて、その得体のしれない者を封印しなければならないのだ。


「…すごい…」


結界を解いた主さまの鮮やかな手腕に思わず見惚れていたのだが――突然生ぬるい空気が襲ってきて身体が勝手に後退りをした。


「ほらな、まだお前にゃ早いだろ」


雪男が身体を張って背中に庇ってくれると、朔は肩を抱いてきた主さまを見上げた。


「気後れするな。毅然としていろ」


「はい」


この国の者ではない“渡り”。

はじめて、相まみえる――