主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

翌朝輝夜が牛車に乗って平安町の晴明邸に出発すると、朔は百鬼夜行から戻って来た主さまが縁側で寛いでいるのを見計らって正面に立ってじっと見つめた。


「…どうした」


「父様、お話があります」


「…」


「この前お話した件です。それを聞くために輝夜を母様の所に行かせました。俺に話して下さい」


…なんとも知恵が回ることだろうか。

長男で次期当主の自分には秘密を聞く権利がある――朔はそう訴えてきているのだ。

いつかは必ず話さなければならない事案だが、まだ朔は幼い。

…いや、幼いと思っているのは自分だけで、もうこの子は大人になってしまったのだろうか?


「父様」


「主さま話してやれよ。こうなるとさ、もう俺も降参。話聞くまでついて回るぞ」


様子を見ていた雪男がため息まじりにそう言うと、誰よりも子供たちの面倒をよく見ている雪男に免じて仕方なく大きく息をついた。


「…お前は地下に行ったことがあるか?」


「地下…ですか?雪男の部屋から下には行ったことがありません。父様が行くなって言うから」


「そうだ。あそこには…“渡り”がいる。この国ではない出生の妖だ」


――自分の耳を疑った朔が雪男を振り仰ぐと、雪男が頷いたためまた主さまに向き直った。


「“渡り”…」


「直接口で話すことがなく頭の中に話しかけてくる。それすら滅多にしない。…そいつが久方ぶりに話しかけてきた」


「何かの前兆…なんですか?」


「分からん。だから今それを調べている。…お前たちにまだ関わってほしくなかったから黙っていたんだが…」


「そう、ですか…。じゃあそのせいで輝夜の様子がおかしいんでしょうか…」


それは初耳だったため、主さまと雪男が目を見張って朔の肩を掴んだ。


「輝夜がどうした」


「昨日お祖父様の屋敷で急にぼうっとして…何かを見たらしいんですが話してくれなくて…」


「…そうか。これはいよいよ何かが起こるな」


家族に害をなす者は許さない。

この命を賭しても。