主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

息吹はその夜、晴明に鳥型の式神を借りて朔宛てに文を飛ばした。

内容は――


『明日輝ちゃんだけこちらに来るように上手に伝えて下さい』


…実はそれはとても困難なことだ。

輝夜はとても聡い子で、そういった隠し事には天性の才を発揮して暴いてしまうことが多い。

だが、兄の自分が言うことには何が何でも信じ込む節があり、“分かりました”と書いて飛ばすと早速居間で蜜柑を食べていた輝夜の元に向かって半分分けてもらうと、頬張りながら何の気なしに話を始める。


「さっき母様から文が来た。明日はお前だけ来てほしいんだって」


「え…どうして私だけなんですか?」


「うるさいのがふたり来るとお祖母様が疲れるんじゃないかと思ってるのかも。だから明後日は俺がひとりで行く。いいな?」


「はい、分かりました」


素直に信じた輝夜の頭をぐりぐり撫でた朔は、縁側で何故かぐったり横になっている雪男に近付くと、その身体を大きく揺すった。


「おい、なんでそんなに疲れてるんだ」


「お前の親父に色々やらされてんの!ったく…俺にも蜜柑!」


輝夜がぽんと蜜柑を投げて寄越すと、雪男はそれを手を伸ばして取ると、今度は朔がそれを奪い取って皮を剥き始めた。


「おい…俺はしつこいからな」


輝夜に聞こえないようこそりと囁いた朔の射るような眼差しにぶるっと身震いした雪男は、成長してゆくにつれて朔の力が開花し始めていることに対して嬉しいような、怖いような――複雑な思いになりながら目を閉じる。

朔はその口に蜜柑をねじ込みながらもじっと雪男を見ていた。


「なんのことだか分かんねえな。もう遅いからそろそろ寝ろよ」


「ふん。輝夜、もう寝よう。これからは母様が帰って来るまで妹や弟たちと一緒に寝るんだ。寂しがるといけないだろ」


「ええ、分かってます」


この長兄と次兄はとにかく仲がいい。

きっと朔の代の百鬼夜行はとんでもなく強くなる――

そう、確信していた。