主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

「気を付けて帰ってね」


息吹にそう送り出された朔と輝夜は姿が見えなくなるまで牛車の御簾を上げて手を振り続けた。

特に朔は息吹と話したことについて強い責任感を持ち、次会った時はちゃんと話せるように牛車の中で考えを巡らせる。

そしてそれは輝夜も同じで、ふたり揃えば悪童と言われるふたりの間に妙な沈黙が下りて、それに気付いた輝夜がぱっと笑顔を作って手を握って離さない朔の肩に頭を預けた。


「お祖母様、お元気そうでよかったですね」


「ん。でもあの人は長くないんだ。輝夜、俺たちは長く生きられるのかな。それとも短いのかな」


「私たちは半分妖の血が流れていますから長く生きるかもしれません。だからこそ命の重みをよく知らなければ」


百合はそれを自身の身体でもって教えてくれる。

人の生とはいかに短く儚いものか――だからこそそれに惹かれる。


――話しているうちに幽玄橋を渡って屋敷に着くと、朝ほとんど相手をしてくれなかった雪男が出迎えてくれた。


「よっ、遅かったじゃんか」


「あちらで皆と夕餉を食べてきましたから。父様は?」


「主さまはもう百鬼夜行の準備してるから邪魔しないようにな」


不信感とまではいかないが、自分たちを案じて何も話さない父の姿勢には疑問を感じる。

鬼の血が流れているため成長が速く頭も切れることを知っているはずなのに。

何も教えてくれず、まるでまだ童のままでいてほしいと願われているような気がしてならない。


「父様、もう行かれるのですか?」


「…ああ。お前たち、息吹が居ないんだから妹や弟たちを頼むぞ」


「はい」


言われなくても分かっているが反論は決してしない。


朔も輝夜も、独自で動いて独自で情報を得ようと決めていた。

決めたからには、もう変えない。


その強い意志は息吹から受け継いだ。

だからこそ――息吹もそう思っていたことを、彼らは知らない。