主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

「…夜!輝夜!!」


「!」


誰かに肩を揺さぶられてはっとした輝夜が意識を取り戻すと、朔にぎゅうっと抱きしめられて我に返ったのだと気付いた。


「兄さん…」


「良かった…。急にぼうっとして何も話さなくなったから心配したぞ」


「ごめんなさい…。…あのふたりは…」


「あのふたり?」


話しかけてはいけないのについ過去に干渉してしまった輝夜は立ち尽くしたままそう呟いて押し黙る。

まだ頭の中にあのふたりの声が響いていて鳴りやまない。


これは自分がどうにかしなければいけない問題なのだと、悟った。


「なんでもありません。なんでも…」


「そんなわけないだろ、今のは…今のはお前が急に居なくなったりする時の前兆だ。俺に話せないのか」


「今はまだ」


整理しなければならない。

今朔に伝えようとしても言葉がまとまらず散らばってしまってうまく伝わらないだろう。


「私はやっぱり…そうなんですね」


「え?」


「私は…」


――私はこうして安穏とした生活を送ることはできないのですね。


心の中でそう呟いた輝夜は朔に笑顔を向けて首を振った。


「何をしていたんですっけ?ああそうだ、お祖母様にお花を摘んで持っていくんでしたね」


「うん…そうだけど」


「兄さんごめんなさい、ちょっと変な夢みたいなのを一瞬見てしまっておかしくなりましたけど大丈夫ですよ」


朔の目から見てとても大丈夫には見えなかったが、弟がそう言うのならこちらが強固に聞き出そうとしても言わないだろう。


「いいんだ。輝夜…居なくならないでくれよ」


背を向けてそう囁いた朔が花を摘みに縁側から離れると、輝夜はふっと微笑して自身の掌に視線を落とした。


「それは…無理でしょうね…」


自らの運命を知っているから。