主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

白昼夢を見た。

それまでは兄と楽しく遊んでいた輝夜は急に視界が真っ白になって動きを止めた。

――こういう時は必ず未来の光景が見えるのだと知っていた。


「…ここは…」


真っ暗だ。

何も聞こえず何も見えない闇の中、輝夜はそこから動かないと決めて膝を抱えて座り、耳を澄ませた。

耳を澄ませても何も聞こえないのは分かっていたのだが、風がどこからか流れているのだけは分かった。


『……私の……せいで……』


「君のせいじゃない。僕が…弱かっただけなんだ」


『……お願い…死なないで…!』


「大丈夫。またきっと…どこかで出会えるよ」


『本当……に…?信じても…いい…?』


「ああ、僕を…信じて。だから…分かるね…?」


――男と女の声だ。

双方ともに若い声で、男の方は少し苦し気に息を荒げていた気がした。


「これは…未来じゃない…」


女の悲痛な泣き声に輝夜は思わず耳を塞いだが、否が応でも心の中に怒涛の如く流れ込んでくる女の絶望。

そして男の、ふっと息を吐いてどこか満足したような笑んだ声。


このふたりは愛し合っている。

心の底から愛し合って、そして今引き裂かれようとしているのだ。


「誰…ですか?」


『!?……あなた…こそ…誰…』


現在過去未来全てにおいてその時見えた光景については干渉してはならない。

そう物心ついていない時から知っていたのに、輝夜はつい問いかけてしまって両手で口を覆ったが、その時はもう時すでに遅しの状態。


「僕たちしか居ないのに…誰だろうね…。神仏かな。僕を迎えに来たのかも」


『やめて…逝かないで…!』


「だから花、僕の願いを叶えて。最後のお願いだよ」


泣きじゃくり、それを否定する“花”と呼ばれた女。

輝夜はまた声を上げそうになったが、その時ぐんと身体が引かれてその場から強制的に引き離された。


ふたりをまだ見ていたかったのに。

ふたりが誰なのか知りたかったのに。


それは適わぬまま、元居た世界に引き戻された。