主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

蔵の中にある多くの文書は禁書に近い。

代々の当主が何か凶事があった時に書き記し、同じようなことがあれば対処するようにと書き記されてある。

主さまの家系図はとても長く、先代の潭月以前の当主には何人もの妻が居たため血族は多い。

またこの禁書を読めることに感動した晴明は、ぶつぶつと独り言を言いながら読み続けていた。


「あのー、ちょっとそこの陰陽師うるさいんですけどー」


「このような面白きものを今までよくも隠していたな十六夜」


「…お前は俺の家系の者じゃないだろうが。第一見せること自体禁じられているんだからな」


「ほほう、解せぬことを言う。雪男とて血族ではなかろうに。何故雪男が許されて私には許されんのだ。端的に述べよ」


こういう時の晴明はしつこく、主さまは蠅を追い払うようにして手を振ると、一冊の書物に目星をつけた。


「地下のあれが居着いた時の当主の書物だ。…何やら封印がされてある」


――他の書物には封印などされていなかったが、何故かこの一冊には厳重な封が施されてあり、主さまは目を閉じて精神を集中させると解錠の術をかけた。


…が――


「…っ」


指先が雷に打たれたように痺れて書物を取り落とすと、雪男と晴明が主さまに寄って焦げた指先に眉をひそめた。


「なんだそれ。解けないのか?」


「おかしいな…これで解けるはずなんだが」


「どれ、私が…」


今度は晴明がその書物を主さまから受け取ろうとしたが――今度は手にすることすら許されず、閃光を放って埃っぽい床に落ちた。


「十六夜にしか持てぬ、か。そなたが紐解く他あるまいな」


「…俺は本を読むのは苦手なんだ」


「では本が好きな朔に手伝ってもらおうか」


「朔を引きずり込むな。…あれが知るにはまだ早い」


息吹と子供らにはとことん甘い。

主さまはありとあらゆる術を試すため、また精神を集中して書物に意識を傾ける。


およそ良い予感は全くしない。

全くしないどころか、悪い予感しかしなかった。