主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

朔は息吹と離れてからなおさら輝夜の手を離さなくなった。

主さまと雪男は朝っぱらから蔵に籠もり、山姫が玄関に止まった牛車にふたりを乗り込ませた。


「じゃあ息吹と晴明によろしく」


「山姫、父様たちは…」


「やんちゃばかりせず大人しくしていなさい、って伝えてくれって言われたよ。なんか忙しいみたいだねえ」


山姫も事情を知らないらしく、詮索ばかりすると怪しまれるためそれを避けてふたりはにっこり笑って幽玄町を出発した。


「母様はこのこと知らないよな、多分」


「ええ…。兄さん、母様には絶対知られてはいけません。…そんな予感がするんです」


「そうか…。お前がそう言うなら黙ってよう」


御簾を少し上げて景色を楽しみながら母と会えることがとても楽しみだ。

過保護でもなければ放置でもなく、適度に遊んで適度に人の常識を教えてくれる母はとても強く芯の通った人で、大きくなって嫁を貰う時がきたら必ずそういう人と夫婦になりたいと幼いながらに決めていた。


「やあ、よく来たね」


門を潜るなり晴明に声をかけられたふたりは、晴明がどこか出かけていく風だったため背の高い祖父を見上げて首を傾げた。


「お祖父様はどこかへ行くんですか?」


「ああ、十六夜に会いにね」


「父様に?でも父様は…」


「ん?なんだい?」


――目を丸くする晴明にふたりは首を振って脇に避けた。


「いいえ、なんでも。お祖父様行ってらっしゃい」


「ああ、そなたたちもゆっくりしていきなさい」


そして晴明が牛車で去ると、それを見送っていたふたりに息吹が声をかけた。


「朔ちゃん、輝ちゃん、いらっしゃい」


「!母様!」


優しい笑みで出迎えてくれた息吹にふたりが駆け寄る。

何も知らない風に見せることに成功した晴明は牛車の中でほくそ笑みながら幽玄町に向かった。