母の身の回りの世話をして、いつもは式神が料理や掃除をするのだが、その一切を息吹が引き受けて家事をこなす。
使い慣れた台所に立って包丁で野菜を切っていると、百合が起きてきた。
「息吹、私も手伝うわ」
「お母さんは寝てた方が…」
「今日は調子がいいの。晴明様の薬のおかげかしらね」
「父様の薬はとってもよく効くでしょ?だからきっとお母さんの病も良くなるはずです」
――晴明を父様と呼んで慕う息吹に目を細めた百合は、何度か実の父のことを話そうとしたのだが、こうして息吹が晴明を慕うためそれを言い出せないでいた。
また教えたとしてもきっと興味はないのだろう。
自分は息吹を捨てて、夫は自分を捨てた――今生きているのか死んでいるかも分からない。
「息吹、あなたどこで料理を覚えたの?」
「ここで。式神のみんなに教えてもらったり本で学んだり。お母さん…私にお母さんの味を教えて下さい」
「ふふ、いいわよ。じゃあお味噌汁を一緒に作りましょうか」
顔色が幾分良い母の姿に安心した息吹は、夕暮れになって百鬼夜行の時間が近付いて来ると、庭に出て空を見上げた。
…まだ一日と経っていないが、随分離れている気がしていた。
母の体調が良ければ明日は朔たちを呼んで元気に育っている姿を見せてやりたいと思い、縁側に座ってこちらを見ていた百合に笑いかけた。
「お母さん、私の子供たちを明日ここに呼んでもいい?」
「もちろんよ。私にとっては孫になるのよね。ふふ…」
少し照れたように笑った母の身体に羽織をかけてやり、隣に座った息吹は主さまを案じてまた空を見上げた。
使い慣れた台所に立って包丁で野菜を切っていると、百合が起きてきた。
「息吹、私も手伝うわ」
「お母さんは寝てた方が…」
「今日は調子がいいの。晴明様の薬のおかげかしらね」
「父様の薬はとってもよく効くでしょ?だからきっとお母さんの病も良くなるはずです」
――晴明を父様と呼んで慕う息吹に目を細めた百合は、何度か実の父のことを話そうとしたのだが、こうして息吹が晴明を慕うためそれを言い出せないでいた。
また教えたとしてもきっと興味はないのだろう。
自分は息吹を捨てて、夫は自分を捨てた――今生きているのか死んでいるかも分からない。
「息吹、あなたどこで料理を覚えたの?」
「ここで。式神のみんなに教えてもらったり本で学んだり。お母さん…私にお母さんの味を教えて下さい」
「ふふ、いいわよ。じゃあお味噌汁を一緒に作りましょうか」
顔色が幾分良い母の姿に安心した息吹は、夕暮れになって百鬼夜行の時間が近付いて来ると、庭に出て空を見上げた。
…まだ一日と経っていないが、随分離れている気がしていた。
母の体調が良ければ明日は朔たちを呼んで元気に育っている姿を見せてやりたいと思い、縁側に座ってこちらを見ていた百合に笑いかけた。
「お母さん、私の子供たちを明日ここに呼んでもいい?」
「もちろんよ。私にとっては孫になるのよね。ふふ…」
少し照れたように笑った母の身体に羽織をかけてやり、隣に座った息吹は主さまを案じてまた空を見上げた。

