主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

「…来ると思っていた」


会うや否や主さまからそう言われてにやりと笑った晴明は、不可侵のはずの部屋にずかずか上がり込んでどっかり腰を据えた。


「そうだろうとも、私はいつもそなたたちの星回りを見ているからな」


「…気持ち悪い奴だな、監視してるのか」


「案じている、ということだよ。ところで息吹に頼まれて輝夜と息吹の星回りを見ていたのだが…おかしなことになってはいまいか?」


晴明に隠し事をするのはとても難しい。

大抵の者には鉄壁の無表情で接すれば隠し事など容易いのだが…ことさら晴明に関してはそれが通用しない。

一応部屋に結界を張って盗み聞防止の処置を施した主さまは、声を潜めて事情を話した。


「うちの地下に居る奴のことだ」


「ああ…花…だったかな?」


「…そうだ。今日久々に話しかけてきた」


――地下に居座る言葉を話さぬ女。

何かを待ち焦がれ、そこから出ることを拒絶しては居座り続けたため、代々の当主は仕方なく封印をし続けているといういわくつきの女。


「そうか…それで妙な結果が出たのだね」


「何が起ころうとしているんだ?」


「分からぬ。花殿は“渡り”だったな。それ以上の情報はないのか」


「今探している。…朔たちが話を嗅ぎ付けてしまって困っている」


「ははは、あの子らは好奇心旺盛だからねえ。どれ、私も花殿と話をしたいのだが」


晴明は花に会ったことがない。

主さまの家の直系の者だけがその存在を知り、隠し続けてきたため、部外者はおよそこの屋敷を守る雪男しか知りえないのだが。


「…」


「雪男は知っているのだろう?私に話さぬというのはどういった了見だ」


ひねくれる晴明に少し笑んだ主さまは、息をついて寝転んだ。


「朔たちを明日お前の屋敷に遊びに行かせる。その隙に会わせる」


「ふむ、了解した。どれ、愛しい妻に会って来よう」


ほくほく顔で部屋を出て行った晴明だったが、主さまの表情は晴れず、自分の代であの地下の“渡り”と関わらなければならないことにまた深く息をついた。