主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

息吹と百合が仲良く語らうのを見た後、晴明は水盤の前に座って息吹が気にしている輝夜を占った。


流産しかけた後神託を受け、臨月を迎えずして生まれ落ちた輝夜は、生後間もなく目を開けて真理に満ちた眼差しを見た時はぞっとしたものだ。


「おお…これは…」


水紋が幾重にも重なる。

輝夜を占う時は必ずといっていいほど何かの干渉を受ける。

故に晴明もことさら慎重に占星術を行うのだが――失敗した。


「では息吹はどうだ?」


息吹もまた星回りが悪いことが多く、水盤を満たす水が緩やかに波紋を見せた。


…息吹自身に問題はないように思えたが、息吹の周囲の者に何か起こるような結果が見えた。


「十六夜…か…?いや、息吹やも知れぬ。なんだこれは…」


胸騒ぎを覚えて晴明が狩衣を着こんで烏帽子を片手に客間の百合と息吹を訪れると、息吹が驚いて腰を浮かす。


「父様?お出かけですか?」


「ああ、ちょっとね。十六夜をからかいに行ってくるよ」


「ふふ、喧嘩しないで下さいね。お気をつけて」


この屋敷には様々な結界を施してあるため、主さまの屋敷にも劣らぬ鉄壁の防御を誇っている。

強い式神を何体も屋敷の周りに放っているし、多少外出していても問題はない。

百合に頭を下げた後牛車に乗って幽玄町に向かった晴明は、縁側に倒れ込んでいる雪男を見かけて傍に座ると額を小突いた。


「疲れ切っているな。どうした?」


「あー、ちょっと調べものしてたんだ。疲れた…」


「ところで十六夜は起きているか?」


「多分な。でももし寝てて起こしてしまったら命が危ないぞ、注意しろ」


晴明の来訪に気付いた朔と輝夜が居間に飛び込んでくると、晴明はふたりの頭を撫でて立ち上がる。


「では起こしてこよう。火急の用ゆえ、多少殺気を向けられても構わぬ」


妙な胸騒ぎは何の予兆なのか?

嫌な予感は大抵当たる。

それが憎らしく、主さまの部屋の障子を無断で開けてしかめっ面と対面した。