主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

「…?」


晴明の屋敷に着いて母と面会し、久方ぶりに張り切って掃除をしていた息吹は何かに呼ばれた気がして顔を上げた。

…正直子供たちを置いていくのはかなり気が引けていた。

まだまだ小さくて目が離せない子も居るのだが、それでもという自分のわがままを許してくれた主さまや山姫たちに感謝してもしきれない。


「息吹?どうしたんだい?」


「ううん、何かに呼ばれた気がして…」


息吹は時々勘が鋭くなる。

そういう時は大抵よくないことが起きるため、義理ではあるが娘溺愛の晴明は、後で密かに息吹の運勢を占おうと決めて袖を払い、書物に目を落とした。


「十六夜はすんなり送り出してくれたかい?」


「はい。でも帰ってきた時雪ちゃんと難しい顔してたから喧嘩でもしたのかなって思って聞いたんですけど、違うって言われました」


「難しい顔?百鬼夜行で何かあったのかねえ。元々あ奴は気難しい顔をしているからね」


主さまと晴明は知古の関係であるためふたりともお互いを語る時辛辣になることが多い。

息吹はそんなふたりの関係性が好きで、笑いながら棚を拭いていた。


「父様、母様にもちゃんと話をしてきましたけど…寂しがってるかもしれないからお願いしますね」


「もちろんだとも。息吹がここに居る間は私があちらへ顔を出しに行ってもいいしね」


晴明は幼い頃から山姫を好いていて、ふたりはようやく夫婦になれたが――山姫は百鬼としての立場を捨てることを嫌がり、今でもふたりは別居のような形をとっている。

隣にちょこんと座った晴明は、最近輝夜の様子が少しおかしいことを気にして晴明に頼み込んだ。


「父様、最近輝ちゃんのことが気になるんです。占ってもらえませんか?」


「輝夜か…。あの子の星回りは特別だからね、少し時間がかかるよ」


「ありがとうございます!」


子供たちと主さまたちのことを思いやりながら、晴明の手を握ってまた頭を下げた。