主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

困り顔の雪男に追い縋ろうとする朔と輝夜に気配を消して近付いた主さまは、その小さな肩の上に優しく手を置いた。


「!?ち、父様…」


「…お前たちに話がある。こっちに来い」


「でも…」


「雪男は何も話さんぞ。俺が話さないように命令してあるからな」


雪男は主さまの側近。

いくらその主さまの子供たちといえども雪男の口は堅く、いつも軽快に話をしてくれるのにこの時ばかりはふたりの頭を撫でて謝ってきた。


「ごめんな」


家長の主さまに逆らうことはもちろん許されず、長く話をしたことも正直今までない。

ふたりは手を繋いで緊張したまま主さまの寝室兼自室に連れて行かれて障子を閉められた。


「何か探っているようだが、それをやめるんだ」


「…俺達には話せないことなんですか?」


「いや、もう少し大きくなったら話すつもりだった。だが今は知る必要はない。…お前たちにこそこそ探られるとやりにくい」


「父様」


突然輝夜が凛とした声で背筋を伸ばすと、どちらかといえばいつものんびりしている次男の変わりように主さまは同じように居住まいを正して向き合った。


「なんだ」


「大きくなったら、とはあと何年必要なのですか?」


「…何故それを知りたがる?」


「私は…私は急がなくてはならないので」


「…どういう意味だ」


「…」


――主さまも朔もその無言と寂寥感を滲ませた表情に不安を隠しきれず、特に朔は輝夜が痛がるほど手に力を込めて握った。


「輝夜…変なことを言うな。どうしたんだ」


「…知りたいのです。今すぐに」


「…今調べている最中だ。分かるまではお前たちには話せない。…輝夜、それで納得してくれ」


「……はい」


泣き虫の弟。

妙な出生、妙な力――朗らかな弟が押し黙ると決まって朔は不安にかられてどうしようもなくなる。


いつか消えてしまうのではないだろうか?

その不安は生涯ずっと付きまとうことになる。