主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

それから息吹は実父が所在不明で生後すぐに離縁してから会っていないと百合から聞き、落ち込みはしたもののすぐに立ち直った。

何せ実の母がこうして会いに来てくれて、再会を喜んでくれる――

絶対に今後の短いであろう人生を幸せに生きてほしい…

それには自分や晴明たちの協力が必要だと強く感じた。


「父様、私今日はこれで戻ります。百鬼夜行の前に主さまにお話して、朔ちゃんたちにもよく言い聞かせないと」


「ふむ…いざ…主さまが首を縦に振るとは思えぬが。つまり別居だろう?」


「主さまもここに住んだらいいんじゃないかな。駄目かな…」


「あ奴は妖を統べる主。平安町に長く留まることは本来許されておらぬ。私も説得はするが、そなたがよく話をするのが一番だよ」


「はい。じゃあ戻りますね。あの…お、お母さん…」


「はい、なあに?」


「またすぐ来ますから。だからお身体をゆっくり休めて下さい」


「ええ、ありがとう息吹…」


――息吹が自分が死ぬまでの間一緒に居てくれると言ってくれたおかげで、百合の目には光が宿った。

なるべく長く生きて、娘と共に一緒にできなかったことを沢山したい…

その一心が百合の治癒力を高めて、顔色が良くなった。


「父様、明日早朝参ります。主さまはきっとすごく怒るけど…私、説得頑張るから」


「元々あ奴はそなたのおねだりには滅法弱い。心配してはおらぬよ」


晴明に送り出された息吹は牛車に乗り、昼を過ぎて主さまがまだ寝ているであろう時間帯に幽玄町に戻った。


帰って来るのを今か今かと待っていた朔と輝夜たちが玄関から飛び出てくると、息吹はしゃがんでふたりを抱きしめて、草履を脱いだ。


「ただいま。お話があるんだけど、先に父様にお話してくるから待っててね」


「はいっ」


主さまならきっと分かってくれる。

きっと――