息吹が客間に恐る恐る足を踏み入れる。
床から起き上がって正座して待っていた百合は美しく成長した我が子を見て――涙ぐんだ。
泣く泣く捨てた我が子。
せめて妖の治める幽玄町にかかる橋に捨てて行けばもしかしたら生き延びるかもしれないという一縷の望みをかけて捨てた子。
あれからどれだけ後悔したことか…
あれからすぐ夫と別れてひとりで懸命に生きてきたが病に侵され…こ
これが我が子を捨てた報いなのかもしれないと思い、治療をせず死を受け入れる準備をしてきた。
「息吹…なのね…?」
「はじめまして…息吹と申します」
息吹という名は自分がつけた。
産着にその名を記した札を挟んで、強く生き延びてほしいという思いを込めてつけた。
そしてその子が息吹と名乗った――
息吹を拾って育ててくれた主さまたちがそのままその名をつけてくれたことがとても嬉しくて、百合が嗚咽を漏らす。
「なんてきれいなの…。あなたは生まれた時から色が白くて…可愛かった…」
「…私は…あなたの手元から離れた後、妖の皆に育てられました。あなたは…あなたは間違っていません」
百合が目を見張った。
息吹は傍に正座してゆっくり息を吐くと、思いを語った。
「私は神仏の化身なのだそうです。だから生まれたばかりでも話せました。赤子が話すなんて…さぞ怖かったことでしょう」
「息吹…」
「もしかしたら私だってそうしたかもしれない。ほとんどの人がそうすると思います。…我が子殺しをする人も居るかもしれません」
話しているうちに息吹の声も震えて、後方に座って様子を見ていた晴明は静かに目を伏せた。
「お母さん…私を生んで下さってありがとうございます。あなたに救われたおかげで私は今、とても幸せです」
――自然と“お母さん”という言葉が口からついて出た。
百合が手を伸ばす。
息吹はその手を優しく握って、生んでくれた母に感謝を込めて何度も頭を下げた。
床から起き上がって正座して待っていた百合は美しく成長した我が子を見て――涙ぐんだ。
泣く泣く捨てた我が子。
せめて妖の治める幽玄町にかかる橋に捨てて行けばもしかしたら生き延びるかもしれないという一縷の望みをかけて捨てた子。
あれからどれだけ後悔したことか…
あれからすぐ夫と別れてひとりで懸命に生きてきたが病に侵され…こ
これが我が子を捨てた報いなのかもしれないと思い、治療をせず死を受け入れる準備をしてきた。
「息吹…なのね…?」
「はじめまして…息吹と申します」
息吹という名は自分がつけた。
産着にその名を記した札を挟んで、強く生き延びてほしいという思いを込めてつけた。
そしてその子が息吹と名乗った――
息吹を拾って育ててくれた主さまたちがそのままその名をつけてくれたことがとても嬉しくて、百合が嗚咽を漏らす。
「なんてきれいなの…。あなたは生まれた時から色が白くて…可愛かった…」
「…私は…あなたの手元から離れた後、妖の皆に育てられました。あなたは…あなたは間違っていません」
百合が目を見張った。
息吹は傍に正座してゆっくり息を吐くと、思いを語った。
「私は神仏の化身なのだそうです。だから生まれたばかりでも話せました。赤子が話すなんて…さぞ怖かったことでしょう」
「息吹…」
「もしかしたら私だってそうしたかもしれない。ほとんどの人がそうすると思います。…我が子殺しをする人も居るかもしれません」
話しているうちに息吹の声も震えて、後方に座って様子を見ていた晴明は静かに目を伏せた。
「お母さん…私を生んで下さってありがとうございます。あなたに救われたおかげで私は今、とても幸せです」
――自然と“お母さん”という言葉が口からついて出た。
百合が手を伸ばす。
息吹はその手を優しく握って、生んでくれた母に感謝を込めて何度も頭を下げた。

