翌朝主さまが百鬼夜行から戻ると、息吹は留守番をしていた猫又を庭に寝転がらせて櫛で毛を梳いてやっていた。
「主さまお帰りなさい」
「…ああ。早いな」
「うん、あんまり眠れなくて。でも朔ちゃんたちが起きてきたらご飯食べさせた後行くよ。主さまは…」
「…お前ひとりで行け。俺は今度でいい」
「うん。主さま、行かせてくれてありがとう。本当は嫌なんでしょ?」
言い当てられて黙ってしまった主さまは、恐縮して縮こまっている猫又の前にしゃがんで何本もある尻尾を触りながら頷いた。
「お前が泣くのは嫌だからな」
「ふふっ、今まで主さまには散々泣かされてきました。でもお母さんに会う時に出る涙は嬉し涙だと思うの。…多分ね」
「それならいい。…ちゃんと話して来い」
主さまに背中を押された息吹は目を擦りながら起きてきた朔と輝夜をぎゅっと抱きしめてふたりの寝ぐせを手で撫でつけた。
「おはよう。よく眠れた?」
「はい。母様が一緒に寝てくれたから」
「今度は父様とも一緒に寝たいです」
「じゃあ頑張って朝まで起きて、父様が帰ってきたらみんなで寝よっか」
勝手な提案をされたが喜ぶ朔たちの気持ちを無下にできず、主さまは煙管を噛みながら縁側に腰を下ろして空を見上げる。
――平穏な一日であればいい。
まず愛娘一筋の晴明が、何が何でも息吹を傷つける者から遠ざけてくれる。
その晴明が息吹の母…百合を受け入れて家に置いているのだし、会った印象としては…ただの人。
数十年しか生きられない、ただの人。
子供たちが続々と起きてくる。
主さまは彼らと少ししか触れ合えない時を惜しみ、煙管を懐に直すと食卓の前に座って子供たちと挨拶を交わしながら息吹をずっと見ていた。
「主さまお帰りなさい」
「…ああ。早いな」
「うん、あんまり眠れなくて。でも朔ちゃんたちが起きてきたらご飯食べさせた後行くよ。主さまは…」
「…お前ひとりで行け。俺は今度でいい」
「うん。主さま、行かせてくれてありがとう。本当は嫌なんでしょ?」
言い当てられて黙ってしまった主さまは、恐縮して縮こまっている猫又の前にしゃがんで何本もある尻尾を触りながら頷いた。
「お前が泣くのは嫌だからな」
「ふふっ、今まで主さまには散々泣かされてきました。でもお母さんに会う時に出る涙は嬉し涙だと思うの。…多分ね」
「それならいい。…ちゃんと話して来い」
主さまに背中を押された息吹は目を擦りながら起きてきた朔と輝夜をぎゅっと抱きしめてふたりの寝ぐせを手で撫でつけた。
「おはよう。よく眠れた?」
「はい。母様が一緒に寝てくれたから」
「今度は父様とも一緒に寝たいです」
「じゃあ頑張って朝まで起きて、父様が帰ってきたらみんなで寝よっか」
勝手な提案をされたが喜ぶ朔たちの気持ちを無下にできず、主さまは煙管を噛みながら縁側に腰を下ろして空を見上げる。
――平穏な一日であればいい。
まず愛娘一筋の晴明が、何が何でも息吹を傷つける者から遠ざけてくれる。
その晴明が息吹の母…百合を受け入れて家に置いているのだし、会った印象としては…ただの人。
数十年しか生きられない、ただの人。
子供たちが続々と起きてくる。
主さまは彼らと少ししか触れ合えない時を惜しみ、煙管を懐に直すと食卓の前に座って子供たちと挨拶を交わしながら息吹をずっと見ていた。

