「十六夜、慎重に言葉を選んで息吹に話さねばならぬぞ」
「…分かっている」
晴明に釘を刺された主さまは言葉の機微に疎く直球が多いため、かなり頭を悩ませながら帰宅の途についた。
「主さまお帰りなさい。もうみんな揃ってるよ」
「息吹、話がある」
「なあに?」
「来い」
珍しく人前で手を繋がれて百鬼たちが囃し立てる中、それに動じることもなく部屋に連れ込まれた息吹は大いなる違和感と不安を覚えていた。
「主さま…?」
「…落ち着いて聞いてくれ」
「う、うん。じゃあとりあえず座るね」
ちょこんと正座した息吹の前にゆっくり座った主さまは、また手を握ってきた主さまをじっと見つめた。
「お前の母が会いに来た」
「…え…母?私の…?母様ならここに…」
「…実母だ。訳あってお前に会いたいと縋ってきた」
ーー主さまは町中を出歩かない。
ましてや幽玄町の住人ではないただの人が主さまに会えるはずもなく、息吹がただただ驚いていると、主さまは親指で息吹の手の甲を撫でた。
「輝夜がお前の母の声を聞いたそうだ。会いたいと切に願い、悲鳴のように聞こえたと晴明に語ったらしい。…息吹、どうする?お前の思い次第だぞ」
「輝ちゃんが…?待って…そんな……待って…」
…ああそうだ、この顔を見たくなかった。
狼狽えて今まで心の奥底にひっそりとしまいこんでいた捨てられた悲しみーー
唇を震わせている息吹をゆっくり抱きしめた主さまは、障子越しに朔と輝夜が様子を窺っているのを見てもう一度、なるべく優しく問いかけた。
「…どうしたい?」
「…主さま…会っても…いい?」
「…ああ。それがお前の望みなら」
なんでも叶えてやるとも。
「…分かっている」
晴明に釘を刺された主さまは言葉の機微に疎く直球が多いため、かなり頭を悩ませながら帰宅の途についた。
「主さまお帰りなさい。もうみんな揃ってるよ」
「息吹、話がある」
「なあに?」
「来い」
珍しく人前で手を繋がれて百鬼たちが囃し立てる中、それに動じることもなく部屋に連れ込まれた息吹は大いなる違和感と不安を覚えていた。
「主さま…?」
「…落ち着いて聞いてくれ」
「う、うん。じゃあとりあえず座るね」
ちょこんと正座した息吹の前にゆっくり座った主さまは、また手を握ってきた主さまをじっと見つめた。
「お前の母が会いに来た」
「…え…母?私の…?母様ならここに…」
「…実母だ。訳あってお前に会いたいと縋ってきた」
ーー主さまは町中を出歩かない。
ましてや幽玄町の住人ではないただの人が主さまに会えるはずもなく、息吹がただただ驚いていると、主さまは親指で息吹の手の甲を撫でた。
「輝夜がお前の母の声を聞いたそうだ。会いたいと切に願い、悲鳴のように聞こえたと晴明に語ったらしい。…息吹、どうする?お前の思い次第だぞ」
「輝ちゃんが…?待って…そんな……待って…」
…ああそうだ、この顔を見たくなかった。
狼狽えて今まで心の奥底にひっそりとしまいこんでいた捨てられた悲しみーー
唇を震わせている息吹をゆっくり抱きしめた主さまは、障子越しに朔と輝夜が様子を窺っているのを見てもう一度、なるべく優しく問いかけた。
「…どうしたい?」
「…主さま…会っても…いい?」
「…ああ。それがお前の望みなら」
なんでも叶えてやるとも。

