「ふむ、何故そなたが来たのだ」
「…俺で悪かったな」
早速晴明の屋敷を訪れた主さまは、奥の部屋から出迎えに現れた晴明に渋い顔をされて晴明より渋い顔になった。
何をしに来たのか分かっているだろうにわざと話をはぐらかす名人の晴明は、本題に入らず主さまを客間に通して座らせると、茶を出して目の前にゆっくりと座った。
「で?今日は何の用かな?」
「…雪男から話を聞いて来た。会わせろ」
「十六夜…」
断られそうな気配を察した主さまは茶を一気に呷って飲むと、妖刀天叢雲を脇に置いてずいっと晴明に近付いた。
「…息吹は俺の妻だ。妻の母親に会いに来て何が悪い」
「十六夜…百合殿…息吹の母は幽玄橋を渡れぬほど妖には拒否反応を持っている。もう生い先短い身故橋を渡ることも可能だったろう。だができなかった。娘に会いたくともそれができぬほど妖を怖がっている。そなたは何だ?何者なのだ?」
「……俺は妖を統べる者」
「そうだ。そなたは妖の頂点に立つ男。その男が目の前に現れたとなると、恐怖で言葉を交わすこともままならぬだろう。百合殿に会って何を話すというのだ。話さねばならぬのは息吹だろう?」
晴明の切れ長の目がすうっと細められると、拒絶されたと感じた主さまは、ここは引けないという意思を込めて晴明の腕を強く握った。
「息吹に関わることは全て知っておきたい。どんな形でもいいから会いたい」
珍しく引かない主さまを見つめた晴明は、ひとつの提案を主さまにした。
「まずは怖がらせぬようにするのが第一条件。そなたのその姿を見ることすら人には恐怖を与えてしまう。姿を消すか衝立越しに話すか、百合殿に選んでもらっても良いか?」
「…構わん」
「よし、では聞いてこよう。そなたはしばしそこで待て」
いつまでも待つつもりだった。
その日の百鬼夜行が遅れることになろうとも。
「…俺で悪かったな」
早速晴明の屋敷を訪れた主さまは、奥の部屋から出迎えに現れた晴明に渋い顔をされて晴明より渋い顔になった。
何をしに来たのか分かっているだろうにわざと話をはぐらかす名人の晴明は、本題に入らず主さまを客間に通して座らせると、茶を出して目の前にゆっくりと座った。
「で?今日は何の用かな?」
「…雪男から話を聞いて来た。会わせろ」
「十六夜…」
断られそうな気配を察した主さまは茶を一気に呷って飲むと、妖刀天叢雲を脇に置いてずいっと晴明に近付いた。
「…息吹は俺の妻だ。妻の母親に会いに来て何が悪い」
「十六夜…百合殿…息吹の母は幽玄橋を渡れぬほど妖には拒否反応を持っている。もう生い先短い身故橋を渡ることも可能だったろう。だができなかった。娘に会いたくともそれができぬほど妖を怖がっている。そなたは何だ?何者なのだ?」
「……俺は妖を統べる者」
「そうだ。そなたは妖の頂点に立つ男。その男が目の前に現れたとなると、恐怖で言葉を交わすこともままならぬだろう。百合殿に会って何を話すというのだ。話さねばならぬのは息吹だろう?」
晴明の切れ長の目がすうっと細められると、拒絶されたと感じた主さまは、ここは引けないという意思を込めて晴明の腕を強く握った。
「息吹に関わることは全て知っておきたい。どんな形でもいいから会いたい」
珍しく引かない主さまを見つめた晴明は、ひとつの提案を主さまにした。
「まずは怖がらせぬようにするのが第一条件。そなたのその姿を見ることすら人には恐怖を与えてしまう。姿を消すか衝立越しに話すか、百合殿に選んでもらっても良いか?」
「…構わん」
「よし、では聞いてこよう。そなたはしばしそこで待て」
いつまでも待つつもりだった。
その日の百鬼夜行が遅れることになろうとも。

