蔵から出た主さまは、台所で饅頭を作っている息吹の前に憮然とした表情で立っていた。
そんな表情をすることはよくあるため、息吹は一瞬顔を上げて笑った。
「また怒ってるの?雪ちゃんと喧嘩?仲良くしてね」
「…息吹」
「うん?」
「……なんでもない。少し出かけてくる」
「父様の所?ちょっと待って、このお饅頭包むから持って行ってくれる?」
「…分かった」
――切り出すことができずにさらに苛立ちが募って落ちてくる長い前髪をかき上げていると、遅れて戻ってきた雪男がすれ違いざま小さく呟いた。
「小心者め」
「うるさい」
主さまと雪男が小競り合いしていると、朔と輝夜が顔を見合わせた後主さまの前に座って膝に視線を落としながら謝った。
「父様…勝手なことをしてごめんなさい…」
「…お前たち…息吹が心配だったんだろう?輝夜、よく見つけてきてくれたな」
ぱっと顔を上げた輝夜はまだ思い悩んでいる表情をしながらも、主さまが怒っていることを感じて膝の上で拳を握りしめる。
「でも…父様は嫌なんでしょう?」
「…嫌じゃない。戸惑っているだけだ」
「お祖母様は勇気を振り絞って母様に会いに来たんです。そのお気持ちを分かってあげて下さい」
「父様、俺からもお願いします」
最初からふたりを叱るつもりはなかったが、こうして頭を下げられては――実のところ可愛くて仕方がない我が子を抱きしめて頭を撫でてやりたかったが、それを実行できるような器用な男ではない。
「…分かった。俺が先に会って来るから、お前たちはまだ息吹にこの話はするな」
「父様、冷たくしないであげて下さいね」
輝夜に先手を打たれて深いため息をついていると、息吹が出来立ての饅頭を包んで主さまに持たせた。
「もう夕暮れが近いから、ご飯の時間までには戻って来てね」
――いつもと変わらない息吹の笑顔。
この平穏がずっと続くように努めることが、息吹の笑顔に繋がる。
この笑顔をずっと守っていく。
何が起きようとも。
そんな表情をすることはよくあるため、息吹は一瞬顔を上げて笑った。
「また怒ってるの?雪ちゃんと喧嘩?仲良くしてね」
「…息吹」
「うん?」
「……なんでもない。少し出かけてくる」
「父様の所?ちょっと待って、このお饅頭包むから持って行ってくれる?」
「…分かった」
――切り出すことができずにさらに苛立ちが募って落ちてくる長い前髪をかき上げていると、遅れて戻ってきた雪男がすれ違いざま小さく呟いた。
「小心者め」
「うるさい」
主さまと雪男が小競り合いしていると、朔と輝夜が顔を見合わせた後主さまの前に座って膝に視線を落としながら謝った。
「父様…勝手なことをしてごめんなさい…」
「…お前たち…息吹が心配だったんだろう?輝夜、よく見つけてきてくれたな」
ぱっと顔を上げた輝夜はまだ思い悩んでいる表情をしながらも、主さまが怒っていることを感じて膝の上で拳を握りしめる。
「でも…父様は嫌なんでしょう?」
「…嫌じゃない。戸惑っているだけだ」
「お祖母様は勇気を振り絞って母様に会いに来たんです。そのお気持ちを分かってあげて下さい」
「父様、俺からもお願いします」
最初からふたりを叱るつもりはなかったが、こうして頭を下げられては――実のところ可愛くて仕方がない我が子を抱きしめて頭を撫でてやりたかったが、それを実行できるような器用な男ではない。
「…分かった。俺が先に会って来るから、お前たちはまだ息吹にこの話はするな」
「父様、冷たくしないであげて下さいね」
輝夜に先手を打たれて深いため息をついていると、息吹が出来立ての饅頭を包んで主さまに持たせた。
「もう夕暮れが近いから、ご飯の時間までには戻って来てね」
――いつもと変わらない息吹の笑顔。
この平穏がずっと続くように努めることが、息吹の笑顔に繋がる。
この笑顔をずっと守っていく。
何が起きようとも。

