「……息吹の母……だと…?」
雪男たちが最近までおかしな挙動をしていた真実を聞かされた主さまの鼻面には皺が寄り、一気に不機嫌になったことを察した雪男は、埃っぽい蔵の中でその殺気から距離を取りながら頷いた。
「発端は輝夜なんだ。輝夜の力が顕現して、俺と坊がその話を聞いて確かめに行った。だから俺はいいけど子供たちは責めるなよな」
「…元から責めるつもりはない。その前にお前は俺に話すべきだったな」
「話したら止められたかもしれないだろ。主さまはその様子だと息吹と息吹の母さんを会わせたくないみたいだし。今まで言わなくて正解だったよ」
ふんと鼻を鳴らした雪男にずかずかと近寄った主さまは、驚いて目を見開く雪男の胸倉を掴んでぐっと顔を近付けた。
「会わせたくないのは当然だろう。俺たち妖の世界でも子を捨てる親は鬼畜だ。それが人ともなれば鬼畜以上の化け物だ」
「それは分かるけど息吹の母さんの事情もあるんだ。…もう半年と持たないらしいんだ。だからせめて一目でもという思いで幽玄橋まで来た。…主さまはこの話、息吹にしないつもりか?」
――会わせたくないのは当然だ。
息吹を捨て、その後どうしていたのかなど聞くつもりもない。
捨てられた、という事実が息吹をどれほど苦しめていたことか――
本人が例えそれを認めなくとも少なからず傷ついたのは確かだろう。
「…晴明も関わっているんだな?」
「ああ。今晴明の屋敷に居る。弱り切ってて今にも死んでしまいそうだ。晴明の薬でなんとか持ち堪えてるけど、主さま頼むよ。息吹にちゃんと話してやってくれ」
雪男が主である自分を飛び越えて息吹に直接話をしなかったことについては内心彼を褒めた。
だがそれを口に出す主さまではない。
「…少し考える。考えをまとめて俺が息吹に話す。お前は朔たちを見ていてくれ」
「了解」
息吹の母――
会わせたくはないが、会いたいとは思った。
雪男たちが最近までおかしな挙動をしていた真実を聞かされた主さまの鼻面には皺が寄り、一気に不機嫌になったことを察した雪男は、埃っぽい蔵の中でその殺気から距離を取りながら頷いた。
「発端は輝夜なんだ。輝夜の力が顕現して、俺と坊がその話を聞いて確かめに行った。だから俺はいいけど子供たちは責めるなよな」
「…元から責めるつもりはない。その前にお前は俺に話すべきだったな」
「話したら止められたかもしれないだろ。主さまはその様子だと息吹と息吹の母さんを会わせたくないみたいだし。今まで言わなくて正解だったよ」
ふんと鼻を鳴らした雪男にずかずかと近寄った主さまは、驚いて目を見開く雪男の胸倉を掴んでぐっと顔を近付けた。
「会わせたくないのは当然だろう。俺たち妖の世界でも子を捨てる親は鬼畜だ。それが人ともなれば鬼畜以上の化け物だ」
「それは分かるけど息吹の母さんの事情もあるんだ。…もう半年と持たないらしいんだ。だからせめて一目でもという思いで幽玄橋まで来た。…主さまはこの話、息吹にしないつもりか?」
――会わせたくないのは当然だ。
息吹を捨て、その後どうしていたのかなど聞くつもりもない。
捨てられた、という事実が息吹をどれほど苦しめていたことか――
本人が例えそれを認めなくとも少なからず傷ついたのは確かだろう。
「…晴明も関わっているんだな?」
「ああ。今晴明の屋敷に居る。弱り切ってて今にも死んでしまいそうだ。晴明の薬でなんとか持ち堪えてるけど、主さま頼むよ。息吹にちゃんと話してやってくれ」
雪男が主である自分を飛び越えて息吹に直接話をしなかったことについては内心彼を褒めた。
だがそれを口に出す主さまではない。
「…少し考える。考えをまとめて俺が息吹に話す。お前は朔たちを見ていてくれ」
「了解」
息吹の母――
会わせたくはないが、会いたいとは思った。

