主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

帰り際、雪男は晴明に律儀に頭を下げた。


「晴明、息吹の母さんをここに置いてやってくれないか。あそこじゃ具合が悪化するだけだ。頼む」


「頼まれずともここに置くとも。そなたはひとまず帰って息吹に話しなさい。会う会わないはあの子が決めることだからね」


「ん、分かってる。坊たち、行くぞ」


「お祖父様、お祖母様をお願いします」


朔の聡明な目は信頼の光に満ち溢れ、輝夜のこの子の頼みは断れないと思わせる儚さは晴明を突き動かす。

三人を牛車に乗せて送り出した後、晴明は百合の傍に戻ってすり鉢で薬を煎じながら言い聞かせた。


「あの子が…息吹が何故赤子の身ながら言葉を話せたのか…私がそこだけそなたに教えよう。後は息吹がそなたに会うと決めたならば本人を交えて話す。私は父代わりなのです。あなた方の代わりに育てて慈しみ、とても良い子に育ったことを早くそなたに教えてやりたい」


百合が目を潤ませて頷く。

…息吹がただの人で歳を重ねたならばきっとこの姿に――

それは雪男も朔も輝夜も、百合を通じて息吹の姿を見ていた。


――雪男は幽玄町の屋敷に着くなり、息吹ではなく主さまに会いに行った。

自分は主さまの百鬼。

主さまに隠し事などひとつも作りたくはない。


「主さま、話があるんだ」


「…話せ」


「ここじゃ駄目だ。蔵に行こう」


蔵の鍵は代々当主にしか持つことを許されず、その蔵に行くということは余程重大な話があるということ。

皆にも話せないことなのだろうと悟った主さまは、息吹に見られていないことを確認すると、顎で蔵の方を指した。


「聞いてやる。ついて来い」


真剣な表情の雪男に嫌な予感が競りあがってくる。

彼らがこそこそしている原因――きっとそのことなのだろう。


主さまの表情も自然といつもより厳しいものとなった。