主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

「実は息吹を幽玄橋に置き去りにして以来、息吹の父とは離縁致しました。私たちは息吹を置き去りにするにあたり何度も意見が衝突して…」


「息吹を幽玄橋に置いて行こうと言ったのは父君なのですね?」


「はい。私は私のお腹を痛めて生んだ子を育ててあげたかった。例え物の怪であろうとも。息吹の父は、息吹が生まれてすぐ喋った時、自分は父親じゃない、お前は妖と契ったんだろう、と私を罵倒して…」


――聞くに堪えない話だった。

まだ幼い朔と輝夜は半妖の身。

母は人で父は妖だが、ふたりが心から愛し合って自分たちが生まれたのだという自負がある。

だが息吹の父は我が子を我が子と認めず、百合はやむを得ず幽玄橋に捨てたものの今までそれをずっと後悔していたという百合の本音に言葉を失っていた。


「私はあの時夫に裏切られたと感じました。若くして夫婦になり、若くして生んだ息吹を何が何でも手元で育てようという強い意志に欠けていたんです。…でも病を患い、死ぬ前にせめて一目でも姿を、と…」


「息吹が百鬼夜行の主…主さまと夫婦になったことは知っておられたのか」


「はい、有名な話ですから。息吹という人の子だと聞いて、もしや私の娘ではないのかと…あなたたちが私の孫…なのね?ごめんなさいね、あなたたちのお母さんを捨ててしまって。本当にごめんなさい…」


泣き崩れる百合に輝夜がもらい泣きして泣き出してしまい、朔はぐっと唇を噛み締めて雪男の袖を拳が白くなるほど強く握った。


「…息吹の母さん」


雪男がようやく口を開いた。

朔が雪男の顔を見上げると――見たこともないような真剣な横顔に、手が自然と袖から離れた。


「はい…」


「息吹に会いたいか?」


「会わせる顔がないのは分かっています。ですが一度でいい。一度でいいから、会って謝りたい…!」


「…そっか。…うん、そうだな。そうした方がいい」


決心がついた。