主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

息吹の母を牛車に乗せて晴明邸に運び込み、使役している童子姿の式神たちが床を敷いたり薬湯を準備したり清潔な浴衣に着替えさせたり身の回りの世話をした。


そうすると若干顔色が良くなり、風通しの良い部屋に寝かせて皆は息吹の母が目覚めるのを傍でずっと待っていた。


「ん…」


「あの…お祖母様…」


朔がおずおずと声をかけると、息吹の母は最初ぼんやりとしていたが、子供ながら異様に顔の整った朔と目が合って飛び起きては胸を押さえた。


「うぅ…っ」


「だ、大丈夫ですか?」


「え、ええ…。あの…ここは…あなたは…?」


「私は安倍晴明と申す。こちらは幽玄町の雪男と、百鬼夜行の主の息子である朔と輝夜。…母君、そなたの孫殿ですよ」


「…孫…」


そこでようやく素性を知られていることを知って青ざめると、晴明は細い手を握って安心させるように微笑んだ。


「失礼ですが、名をお聞きしてもよろしいか」


「私は…百合と申します。あの…あの……息吹は…」


「息吹は娘時代まで私がこの屋敷で育てました。大らかで明るくて、たいそう可愛らしく誰からも愛される娘に成長しましたよ、百合殿」


――百合の目にみるみる涙が浮かんで頬を伝った。

朔と輝夜は百合になんと言葉をかけていいのか分からず、ずっと黙っている雪男の左右に座って袖を握った。


「そうですか…元気ですか…!良かった…」


「百合殿、事情を話して頂けますね?我々はあなたを責めたりはしませぬ。息吹を幽玄橋に置いて行った経緯も実は承知しております故」


「え…」


息吹が歳を取ったならば、きっとこんな感じなのだろう。

やつれてはいるが百合は美しく、雪男は黙り込んだまま百合をじっと見つめていた。