主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

「かなり悪い。この様子では半年と持つまい」


「そんな…息吹になんて言えば…」


そもそも息吹が実の母に対してどんな反応をするか予想もできないが、息吹の性格上決して冷たくあたることはないだろう。

だが間違いなく戸惑うだろうし、死を目前にした実の母を想って涙することもあるかもしれない。


「お祖父様、診て下さってありがとうございます。でももっと清潔な場所に移してあげないと…」


朔と輝夜がひそひそ話し合い、晴明が煎じた薬をなんとか飲んで眠っている祖母の前で朔が何か閃いたといった顔をした。


「そういえば母様の手伝いをして貰ったお金がある。それを使えば…」


「私もあります。兄さん幾ら持っていますか?」


――子供の小遣いなどたかが知れている。

だがふたりは真剣そのもので額を突き合わせて金勘定を行っており、あまりにも可愛らしいその光景に晴明が吹き出した。


「これこれ、その金は他のことに遣いなさい。さあ雪男、大人の出番といこうか」


「どうするんだよ。幽玄町に連れて行くのか?赤鬼たちの前に居た時の様子じゃとても橋を渡る度胸はなかったぜ」


「そもそも捨てた息吹に会いに来たのは死の間際にせめて贖罪を果たすためやもしれぬな」


晴明も雪男も、この目の前の女には言いたいこと聞きたいことが山ほどあった。

だが死を待つだけの孤独にまみれた実の母との再会をこんな場所でさせるのはさすがに酷だ。


「お祖父様…」


輝夜が懇願するように晴明を見つめる。

儚い美しさを備えた輝夜の目に自身の姿を見た晴明は、ふうと息を吐いて輝夜と朔の頭を撫でた。


「私の屋敷へ連れて行こう。ここよりはだいぶいい環境で治療してやれる」


「悪いな、晴明」


「いいのだよ。私の屋敷は息吹が育った場所でもある。母君はそれを見たがるだろうからね」


――息吹になんと話をすればいいのだろうか?

あんな細くやつれた実の母を見て、何を思うだろうか?