主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

式神が屋根の上に止まった平屋は年季が入った家で、もちろん鍵がついているはずもなく、勝手に中に入った雪男は敷きっぱなしの床に女を横たえさせると、外で様子を窺っているふたりに声をかけた。


「入って来いよ。でもこれは薬師が必要だな。おい式神、晴明のとこに戻ってここに来るよう呼んできてくれ」


大きな白い鳥の姿をした式神が飛び立って一度旋回すると晴明の屋敷の方へ向かう。

朔と輝夜ははじめて見る母方の実の祖母の傍に寄ると、苦しそうに眉根を寄せている女の顔を覗き込んだ。


「俺たちの…お祖母様?」


「そうなるな。俺もはじめて会ったけど…そっくりだよな」


着ている着物もどこか薄汚れていて、季節はもう寒くはなかったが隙間風は絶えず吹き込み、ここに居れば体調は悪化するばかりだと感じた。


「やっぱり母様にお伝えした方が…」


「うん、それはもちろんそうするけど、その前に晴明に診てもらおう。こんな状態で息吹には会わせられない」


いつもは冷静沈着な朔でさえ、この状況に戸惑っていた。

戸惑いつつも祖母の手をぎゅっと握って、声をかけた。


「…お祖母様、しっかり」


兄がそうしたため、輝夜も小さな手を伸ばして空いている方の手を握る。


「私たちがついていますから。しっかり」


祖母の姿を息吹を重ねて見たのかふたりともうっすら涙目になっていて、雪男は水瓶に清潔な手ぬぐいを浸して絞ると額にあててやった。


「雪男」


「晴明、よく来てくれた。助けてやってくれ」


駆けつけた晴明の手には大きな薬箱。

祖母に付き添うふたりの姿を見て晴明がうっすら笑う。


「私が助けてあげよう」


全幅の信頼を寄せた目で三人が晴明を見つめた。