主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

幽玄橋の中央には、赤鬼と青鬼が金棒を持って仁王立ちしている。

雨の日も雪の日も変わらず立ち、平安町と幽玄町の行き来を禁じていた。


その赤鬼と青鬼の前に――ひとりの女が足を震わせながら立っていた。

…まだ若そうな女だ。

長い髪をゆるく束ねて肩に垂らし、恐怖に震えながらも二匹を見上げていた。


「あれが…息吹の母さんか。……似てるな。そっくりだ」


人の歳で言うと四十代に見える。

息吹が歳を取ったならばいずれこうなるだろうと思わせるほどにそっくりなその女は、こちらを見ると目を見開いた。


朔も輝夜も両親の良いところばかりを受け継いでいて、特に輝夜は顔立ちが中性なため息吹によく似ていた。

それにこの都に住んでいる者ならば誰もが知っている――真っ青な髪と真っ青な目をした主さまの側近の姿があること…


女は後ずさりをすると、踵を返して小走りに逃げようとした。

逃げようとしたが――途中でうずくまって苦しそうに胸を押さえたため、雪男はふたりにその場に居るように言うと駆けて女を抱き起した。


「大丈夫か」


「ぅ…っ」


額には脂汗をかき、心臓が悪いのか苦しそうにしているが、この橋を渡って幽玄町に連れて行くわけにはいかない。

逡巡していると、頭上で大きな白い鳥が旋回しているのが見えた。

それは晴明の使役する式神だったため、雪男が頭上の式神に向けて声を張り上げた。


「家に連れて行く!案内しろ!」


心得たと言わんばかりに式神が旋回をやめて住宅街の方へとゆっくり飛んでいくと、雪男はまごまごしている朔と輝夜に手を伸ばした。


「来い!」


ふたりが手を繋いで駆け寄って来る。

雪男は女が凍らないように気を付けながら抱きかかえると、なるべく揺らさないようにしながら式神の後を追いかけた。