初めてしっかりと見たあの子の顔は、涙目だったけれど、とても綺麗だった。
最初は驚いたり戸惑ったりの色が強かったけれど、最後はぎこちない笑顔で桜を見上げていた。
嬉しくて、嬉しくて、私は白狸に化けてあの子に寄り添った。
この姿なら、見える人が多いから。
あの子の元へ行き頭をすり寄せる。
（ああ、これが人の温もり…）
久し振りの温もりに、寂しさや嬉しさで涙が溢れ出す。
（真白様、紅羽様、人が笑ってくれました…）
「素敵な狸さん。この神社の子かな？」
そう言って、あの子が私の頭をそっと撫でる。
（やっぱり、この姿なら見えるんだ）
「ここの神様の使いかな？さっきの桜吹雪も君がしてくれたの？」
優しく撫でる手は暖かい。
「励ましてくれたのかな。ありがとう…」
儚さを纏ったその子は、それだけ言うと帰って行った。

私はその日の夜、月に願った。
（明日はちゃんと、あの子が笑っていますように）