「確か、この紐を千里に付ければ契約成立なのよね?」
「そのはずだが、君は僕を何日待たせれば気がすむんだ?そろそろ喰ってやっても良いんだけどね?」
「そんな事言わないで!もう少しなんだから!それに善狐は人を喰べないんでしょ?」
「喰べないと言ったが、喰べられないわけじゃないんだよ?正式に契約をしていない今なら君を喰べてしまうのは簡単だ」
僕がやって来てから約5日。
妖にしては随分と気が長い方だろう。
が、神の契約にしてはやけに時間が掛かっている。
「取り敢えず、今日はもう寝ましょう。大分暗くなって来たわ。寝ている間に私のこと喰べたりしないでよね」
そう言って日和は本殿へ入って行った。
日和を見送ってしばらくしてから僕も拝殿を出る。
境内へ出て拝殿の屋根を見上げると、風花が月を眺めていた。
日和の夕餉や布団などの世話を終えた風花はいつも此処に居る。
この5日間で分かった風花の習慣だ。
風花に気づかれない様にそっと近づき腰を下ろす。
「主人に逆らって良いの?」
隣に座った僕を避ける様に風花は詰めた分の距離をあける。
「私は日和様に逆らってないよ」
ただ無表情に月を眺める風花は、何処か遠くを見ている様だった。
「へぇ〜、そんな事言って良いんだ?僕は知ってるよ。風花が日和に知られたくないこと」
「化け狐は冗談が上手だね」
鼻で笑うと、そのまま自嘲気味な笑みを浮かべて月を見上げる。
「…どうしてそんなに主人に固執してるの?」
その言葉を聞いた瞬間、さっきまで1つも動揺を見せなかった風花が顔を引きつらせる。