声に素早く反応し、振り返る。
「その姿、妖狐?私に何か用?」
妖狐は桜の木からひょいと飛び降りてから、ゆっくりと歩いてこちらに近付いてくる。
「僕は君より君の主人に用があるんだ。新しい主人に、ね」
そう不敵に微笑むとわざとらしく言う。
「このご時世に珍しいでしょ、人神なんてさ」
狐火をチラつかせながら妖艶な笑みを浮かべている姿は美しく、さすが上級妖と言った所か。
妖が美しいのは、人を惹きつける為。
強い妖となればなる程美しくなる。
「こんな面白そうなの、放っておくわけがない。…まぁ、つまらなければ喰ってしまうかも知れないけれど」
“主人を喰らう”と言う言葉に思わず反応する。
私は社護り。
神から与えられた役割。
社護りは自らの領域の森羅万象が味方する。
過去の思い出が私に言う。
“もう、次は無い”と。
本殿に強い結界を張り、妖狐を捕縛する算段を立てる。
私が結界を張ろうとした時、
「風花?そこで何してるの?」
心配そうな気遣わしげな声を出しながら、日和が出て来る。