数日が経ち、目を覚まさない主人に少しの焦りを覚える。
いつ目を覚ますか分からない。
食事を準備しておこうと立ち上がる。
台所のある社務所へ向かおうとすると、微かな衣擦れの音がする。
振り返ると、主人が微かに目を開いていた。
「大丈夫ですか?主人様」
主従の関係になった今、“あの子”や“君”と呼ぶのは気が引ける。
ぼんやりとした顔で彼女、基主人が呟く。
「君は…?ここはどこ?」
力無く言う主人に精一杯明るく返す。
「ここは春雁神社の本殿、私は社護りの風花に御座います」
私の言葉に、主人は一気に目を覚ました様に飛び起きた。
いきなり起き上がったせいか、ふらついた主人を支える。
「私は…どうして本殿なんかに…?」
混乱させる様な言い方をした自分に反省しながら、しっかりと説明する。
「昨日、怪我で瀕死の主人に此処の神となる事と引き換えに僭越ながら命を助けさせて頂きまし
た」
主人は記憶を辿り、何処か納得した様に頷いた。
が、想像以上に落ち着いている。
「それは…どうもありがとう。私は日和(ひより)。取り敢えずよろしくね」
不思議に思いながらも、明るく返す。
「はい!よろしくお願い致します、日和様」
ゆったりと微笑む日和が優しくて、嬉しくなって私も笑顔を向ける。