こういうとき、貴慶は決まって呼吸を整えることに集中した。

怒鳴って何かが変わる訳ではない…とでも感じていたらしく、手もとのドストエフスキーの文庫本を読みふけりながら、静かに再び動き出すのを待っている。

(まぁこういう日でないと、こんな難しい本なんか読まんわな)

と内心では思っており、

(あとは美優の出産に立ち会えるかどうかやわな)

と、敢えて時計を見ないことで冷静さを保つようにしていた。