この出来事を境に。

美優には貴慶への疑問が生じた。

(どうして)

遠く離れた場所で一人で生きて行くことになったのかを、である。

目の前の貴慶は、苛烈な半生を送ってきたであろうに違いないはずなのに、

(どうしてだろう)

と美優は思うのである。

グレてドロップアウトしてもおかしくないのに、なぜあんなに美優に優しく接することができるのか、と。