オフセットスマイル

「ねえ、写真撮ってもいい?」

 何かを話そうと言葉を探していた僕を、ふいに珠子が遮った。


「写真?」


「ポスターにするの。引き伸ばして。カミイ君がずっと側に居てくれるように」

 珠子の両頬に、えくぼが出来た。


「そんなもの見ていたら、僕のように、声が聞こえるようになるよ」


「いいじゃない、それはそれで、素敵よ」


 人指し指をメトロノームのように振る。僕は両目で、その指先を追ってしまった。


「カメラは?」


「携帯電話で大丈夫よ」


 珠子はポケットから携帯電話を取り出し、カメラのレンズを僕に向ける。珠子の顔の中央に構えられたレンズが、そのまま珠子の顔ごと僕に迫る。

 接近されると引いてしまう、それが僕の習性だ。思わず心持ち顎を引いた。


「最高画質にしろよ」


 シャッターが下りるまでのほんの短い時間の過ごし方が分からなくて、僕はつい口を挟んでしまう。


「分かってる」


 珠子の口元が携帯電話を両側から緩む。


「近すぎた」


 珠子は腰を上げ、僕をフレームに捉えたまま、左手でお尻の白い砂を払う。

 きれいに砂が払い切れてなかったので、一度スカートを掴んで、珠子はそのままパタパタと揺らした。