オフセットスマイル

「もう無理して巻かなくていいんじゃない?」

 珠子がポツリと零す。


「……そう?」


「ウン……、その方がイイと思う」


「でもね……」

 僕の首筋に温かく柔らかいものを感じる。動かなくなった時計の針をなぞっていた時、珠子が両腕をまわし覆い被さった。

 視界が失われた僕に、珠子は丁寧に唇を重ねる。

 僕は本能的に、ただ、ただ抱き締めた。

 密着した珠子の衣装がしわくちゃに縮み、自分のものかどうかも分からない吐息が、耳元で漏れた。



 その後どうなったのかは、まるで覚えてはいない。

 二人で描いた砂浜の模様は、吹き晒しの風によって、何処かへと拐(さら)われてしまった。