オフセットスマイル

 僕たちは白い砂浜に腰を下ろし、波を眺める。

 穏やかな海は、小さな波の線をいくつも作って、僕たちに向かって重なり合う。


「これから、どうなっていくのかな」


 珠子が、雲ひとつない空を見上げて呟いた。

 波の音が砂粒をさらう。
 足を広げて両腕で支えている僕に、珠子は膝を抱えて座っている。


「珠子は、珠子らしく生きればいいよ」


 多分、珠子より先に、僕も同じ空を見上げていた。

 青と白の絵の具を混ぜたような、空色。久し振りに見たような気がする。

 太陽を探してみた。どうやら、僕たちのほぼ真上にいるに違いなかった。照り付ける光がそう白状していて、確認しなくとも十分にわかる。

 ただ、いくら空を見ていても、波の音だけは聞こえてきた。


「カミイ君はどうするの?」


「僕?」


 珠子はもう、空を見ていなかった。僕は今度、海の方を向いた。海と空が同時に視界に入る。


「僕は僕で、やれるだけやってみる。まだ、確かめないといけない事が、沢山あるような気がするんだ」


「楽天家ね」


「そうかな。珠子の方こそ……」

 そう言い掛けて、言葉を飲み込んだ。

「いや、それとも、この広い海を見ながら、君は僕に『絶望しろ』って言うの?」


「……そうじゃないよ。そう言う訳じゃないんだけどね。何だか満足そうだな……なんて思ったから」


 もう、二人とも、空を見てはいない。

 海もだ。


「そんな風に見えるかい?」


「見えるよ」


 僕は実家を出てから、常にどんよりした空気が漂っていた。しかし、それを払拭するように、努めて明るく振舞っているつもりもない。


「あれっ、時計が止まってる。オークションで落とした中古なんだけど……」


 秒針が動いていない。どうやら、つい先ほど、止まったようだった。

 唐突にこの事に気付いた自分を、今更不思議だとも思わない。この海の広さや果てしない空の青さが、何とかしてくれるような気にさせる。