オフセットスマイル

「ねえ、行こうよ」

 僕はただ、海を見ている。視界の端から端まで、一直線に水平線が伸びていた。


「うん」

 傍らで珠子の返事が聞こえた。


 僕達はごく自然に、指先を絡め合うように手を繋いでいた。
 どちらかが引っ張っている訳ではなく、ただふんわりと、僕たちは同じ速さで歩いていた。

 しなやかで滑らかな時間の流れとは、こういうことを指すのだろう。塩分を含んだ空気と砂浜が、僕たちの軌跡を作る。


「あれ!? お花畑は?」


 珠子はある筈だと言わんばかりに、僕に確認する。


「無いよ。でも、ここ、知ってるよ」


「分かった?」


「ポスターのお花畑でしょ? 僕にくれたあのポスターの背景。撮影に使った……」


「正解!」


「ずっと眺めていたからね、ここが背景だって直ぐに分かったよ。それより撮影場所が、こんなにも近かったんだね」


「こういう仕事は、いろいろとお金を掛けられないモノなのよ」

 珠子が腕を組む。


「そうなんだ。──でも、綺麗だね、ここ。気持ちがいい」

 僕が大きく肺を満たしていると、珠子は声をあげた。


「思い出した!」


「なっ、何を?」


「植えたんだった。絶対お花畑が似合うってワガママ言って」


「わざわざ花を植えたの?」


「花は借りたそうよ。花屋さんに無理を承知で頼み込んだって。後からスタッフの一人が言っていたのを思い出したわ」