オフセットスマイル


 ◆

 僕達は電車に揺られていた。

 がら空きの車両の中、ロングーシートの中央で、僕にもたれ掛かるように、珠子が眠っている。


「珠子、起きろ。ほら、着いたよ」

 電車が停止する。

 しつこい程の慣性が物理的に擦れ合い、引き留められ、連動するように後からガクンとその反動が僕達を襲った。

 それでも、珠子は起きない。

 ぐっすりと眠っている。

「おい、置いていくぞ。起きなって」

 肩を少し乱暴に揺すっても起きない。


 開いた扉からは、海の音と、海の匂いがする。


「僕たち、下りますから!」

 バスではあるまいし、ましてやたった一両編成のような動力車のみの電車でもない。因みに僕達は端の車両にいた訳でもなかったので、だから運転手や車掌にまで聞こえる筈もないのに、とっさにそんなことを叫んでいた。

 珠子の両手をとって自分の体を落とすと、素早く珠子を背負って、慌てて僕は電車を下りた。


 剥き出しのホームにぽつんと設置されていたべンチに、珠子を座らせた。

 息を整えながらその横に座ると、目の前に、白い砂浜と、青い海が広がっていた。


「珠子、着いたよ。ほら、海だよ」


 ツンとした塩の匂いが、ここに座って息をするだけで、ザラついた感触として残る。それなのに、大いに吸い込んで、肺を満たせば満たすほど、どうにもこうにも心地好い。


「……ううん」


 珠子の小鼻がヒクヒクと動く。重なり合った睫毛をゆっくりと戻し、目を開けると、しっかりとホームに足を着けた。