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僕達は電車に揺られていた。
がら空きの車両の中、ロングーシートの中央で、僕にもたれ掛かるように、珠子が眠っている。
「珠子、起きろ。ほら、着いたよ」
電車が停止する。
しつこい程の慣性が物理的に擦れ合い、引き留められ、連動するように後からガクンとその反動が僕達を襲った。
それでも、珠子は起きない。
ぐっすりと眠っている。
「おい、置いていくぞ。起きなって」
肩を少し乱暴に揺すっても起きない。
開いた扉からは、海の音と、海の匂いがする。
「僕たち、下りますから!」
バスではあるまいし、ましてやたった一両編成のような動力車のみの電車でもない。因みに僕達は端の車両にいた訳でもなかったので、だから運転手や車掌にまで聞こえる筈もないのに、とっさにそんなことを叫んでいた。
珠子の両手をとって自分の体を落とすと、素早く珠子を背負って、慌てて僕は電車を下りた。
剥き出しのホームにぽつんと設置されていたべンチに、珠子を座らせた。
息を整えながらその横に座ると、目の前に、白い砂浜と、青い海が広がっていた。
「珠子、着いたよ。ほら、海だよ」
ツンとした塩の匂いが、ここに座って息をするだけで、ザラついた感触として残る。それなのに、大いに吸い込んで、肺を満たせば満たすほど、どうにもこうにも心地好い。
「……ううん」
珠子の小鼻がヒクヒクと動く。重なり合った睫毛をゆっくりと戻し、目を開けると、しっかりとホームに足を着けた。



