オフセットスマイル

「何でラーメン屋で、そんな大切な話をするの?」


 怒ったようで、すねているような、それでも、頭の中で懸命に整理して理解しようとしている、そんな口調だった。


「ココへ連れてきたのは、珠子じゃないか」


「そうだけど……」


 珠子も僕も、そこで言葉に詰まってしまった。今は沈黙が耐えられなかったのだが、珠子の方も同じような心境だったのかもしれない。

 二人とも目の前のラーメンをすすって、平らげた。何色のスープで、どんな味がしたのかなどより、舌の感触だけを頼りに、ただ食べる、という作業を繰り返したようなものだった。


「さぁ、花束を買いに行こう」


「どこへ?」

 条件反射のように、返事が返ってきた。珠子はまだ、ラーメンを食べ終わってはいない。人によっては残してしまうかもしれない量だが、珠子は気にしていないようだった。


「花屋」


「この辺、ないよ」


「そうなの」


「でも、あそこならあるかも……」


「あそこ?」


「そう、そんなに遠くないわ」


「ああ、なるほど。花束の代わりに、僕が連れて行ってあげるよ」


 どうやら珠子とは、殆んど言葉を交わさずとも、意識を共有しているようだった。ぶっきらぼうな僕たちの会話の中で、彼女の言うあそこは、僕のいうあそこと、当たり前のように重なり合った。