「……ごめん」


 ひと呼吸おいて、そう、言うしかなった。

 今の僕には、それしか言えない。


「素直に謝られると、次の言葉が言えないじゃない」

 珠子が腰から手を離し、今度は腕を組む。


「仕方ないわね。折角だし、このままデートする?」


 明らかに自分が生きてきた世界とは違うノリだ。僕はどんな顔をしていいのか、わからない。


「彼女とかいないんでしょ? 『どうせ』とかは言わないけど。全然、興味無さそうだし」


「その格好で街を歩くのか?」


 歩き出そうとする珠子を止める。ヒツコイようだが、メイド服なのだ。僕に言わせればコスプレだ。


「別にいいじゃない。よく似た格好が普段着だ、なんていう子もいるんだから」

「しかし……」

「本当は着たいんでしょ?」

 僕が泡を食っていると、珠子に右手を握られ、引っ張られた。いや、引き寄せられたと言った方が適切だ。


「いろいろと、白状してもらうからね?」


 珠子は更ににじり寄ると、右の眉毛をクイッとあげて、念を押すように、僕の瞳の中まで覗き込む。

 そういえば、珠子は体の小さい僕の手を、ずっと離さず引いてくれた記憶がある。

 柔らかくて、温かい手。
 僕たちが手を繋いでいたのは、ずっと昔、幼い頃の話。なのに感触を覚えている。


 珠子は何一つ変わっていない、僕はそう思った。